農民とセクマイ―弾劾が生んだ奇妙な連帯
- lgbtnewskorea
- 7月30日
- 読了時間: 11分
昨年の12月、ユン・ソンニョル前大統領によって引き起こされた民主主義の危機の中、セクシュアルマイノリティと農民は誰も予想できなかった新しく奇妙な連帯のかたちを築き上げました。
翻訳:가리
翻訳の検討と修正:-
原文:Miguel
原文の検討と修正:-
投稿管理: Miguel
ニュースのポスター: 가리
セクシュアルマイノリティと農民?
韓国社会において、「セクシュアルマイノリティ」と「農民」が交わることはめったにありません。もちろん、両者とも社会の少数者として自らの権利を求めて声を上げてきたという共通点があり、マイノリティ同士での連帯の動きも常々存在していました。しかし、多くの人々にとって、これら二つの集団がともに行動するということは、違和感を覚えるものでしょう。
ところが昨年の12月、ユン・ソンニョル前大統領によって引き起こされた民主主義の危機の中、セクシュアルマイノリティと農民は誰も予想できなかった、新しく奇妙な連帯のかたちを築き上げました。本記事では、少数者への憎しみを基盤に政権を握ったユン・ソンニョル氏に対抗してセクマイと農民がどのように連帯するようになったのか、そして弾劾問題のなかで何度も語られた「ナムテリョン(南泰嶺)」とは何かについて説明していきます。
弾劾政局の中のセクシュアルマイノリティ
前回の記事では、ユン・ソンニョル前大統領の弾劾を求める集会で絶えず声を上げていたセクシュアルマイノリティたちについて取り上げていました。大統領選挙期間中に公約として掲げられた「女性家族部の廃止」といったスローガンに象徴されるように、ユン・ソンニョルの政治姿勢は女性蔑視的であり、それは女性だけでなく、障がい者、移民、農民、そしてセクシュアル・マイノリティなど、さまざまな社会的少数者の権利を縮小させるものでした。反人権的なスローガンを掲げて政権を握った人物による「非常戒厳」に対して数多くの社会的少数者が広場に集まったのは、当然の流れとも言えるでしょう。世界的に極右思想が台頭する中で宣言された反民主的な「非常戒厳」は、社会的マイノリティにとってより深刻な実存的脅威とならざるを得なかったのです。
「非常戒厳」以降の性的少数者の声に関するLGBT News Koreaの記事を読む: 軍事反乱を前に人権と民主主義の危機のなかにある性的マイノリティの声
こうした背景を踏まえて、ユン・ソンニョル氏の弾劾を求める集会において虹の旗(LGBTQ+の象徴)が特に多く掲げられていたことは、注目すべき現象です。これについて、2016年のパク・クネ(朴槿恵)前大統領の弾劾時を思い浮かぶ人もいます。当時、セクシュアルマイノリティたちは腐敗した政治や社会の旧体制の打破に希望を託していましたが、弾劾後に現れたムン・ジェイン政権では、セクシュアルマイノリティに関する政治的課題はほとんど進展が見られませんでした。「大義」の前に、差別禁止法のようなセクシュアルマイノリティの生活に直結するテーマは「後回し」にされたのです。ましてやユン・ソンニョル政権下での後退ぶりは言うまでもありません。
だからこそ、ユン・ソンニョルの早期退陣を求めて広場に集まった数多くの虹の旗は、「ユン・ソンニョル政権によってセクシュアルマイノリティが経験した抑圧と排除に対する抗議」であり、「強い連帯の姿勢」であるということが分かります。性的少数者たちは広場のスピーチセッションで自らのアイデンティティを明かし、ユン・ソンニョルによる差別行動に立ち向かって市民の一員としての認めや、差別禁止法と婚姻平等、そして他のマイノリティとの連帯を訴えかけました。
弾劾政局の中の農民
ユン・ソンニョル政権において、農政で最大の争点となったのは「穀物管理法改正案」でした。穀物管理法は1950年に制定された法律で、韓国政府はこの法律に基づいて主要穀物市場に介入し、価格調整を行っています。その中でも米は特に重要とされていますが、それは米が多くの韓国人の主食であり、食料安全保障の観点から「国家が保護すべき作物」とされてきたからです。そのため政府は常に稲作を奨励し、米の価格の安定を重要課題としてきました。
しかし、いくつかの問題が解決されないままでした。まず、豊作によって米の出荷量が増えるたびに価格が暴落し、結果的に農家の収入が減少するという問題があります。これは現行の穀物管理法では、政府の市場介入が任意であり、いつどれだけ介入すべきかの基準が明記されていないためです。また、どの時点でどれほどの穀物を買い入れるべきかについても規定されていません。農家が米に偏って作付けしている状況も問題視されています。
そこで2023年、当時の野党であり国会多数派だった「共に民主党」は、米の価格と農家収入の安定、食料安全保障の観点から穀物管理法の改正案を国会で可決させました。 その内容は、
政府の市場介入を「任意」から「義務」へ変更すること、
「米の過剰生産が3~5%以上、または価格が5~8%以上下落した場合に政府が強制的に買い上げ、価格を安定させる」こと、
水田を他の作物に転換する場合に支援をすること
等があります。
しかし、与党であった「国民の力」は、この改正案が無意味であり、市場原理や財政に問題あると反対しました。ユン・ソンニョル全大統領も拒否権を発動しました。これは彼の任期中、初の拒否権行使でした。ユン・ソンニョルが国会で弾劾された後、改正案は再び国会を通過しましたが、代行大統領のハン・ドクス氏もまた拒否権を行使しました。怒りに満ちた農民たちはまだ憲法裁判所でユン氏の弾劾審理が進行中だったその時、トラクターを引き連れ、「ユン・ソンニョル弾劾」と「拒否権撤回」を訴えてソウルへと向かいました。
南泰嶺で出会った農民とセクシュアルマイノリティたち
2024年12月21日、トラクターを走らせ全国からソウルへ向かっていた農民たちは、南泰嶺で警察により行く手を阻まれました。南泰嶺はソウルと京畿道の境界に位置し、ソウルへの玄関口とも言える場所です。警察は南泰嶺の全車線を封鎖し、農民たちのデモ隊を力で制圧しようとしました。
この知らせがSNSを通じて広まると、多くの少数者たちが農民たちとの連帯のため現場へと駆けつけました。約1~2時間で数千人の若者が、国会前で少女時代の『また巡り逢えた世界』を歌いながらペンライトを振っていた2030世代の女性たちが、南泰嶺に集まりました。政府庁舎や大統領官邸前で弾劾デモを行っていた人々が、この知らせを聞いて南泰嶺に向かったのです。


多くの性的マイノリティもその場にいました。ユン大統領の弾劾を求める集会と同様に、彼らは自分たちの声や旗を通して自身のアイデンティティを表明しました。まるでクィアカルチャーフェスティバルでパレードするかのように旗を掲げ、他のマイノリティたちと肩を並べてその場を守り、歌を歌い、自由発言を続けていきました。
「実際に、2030代の女性たちが南泰嶺に押し寄せてきたとき、農民たちが感じた驚きと感動は想像を超えるものだった。主催側は『発言したい人は誰でもステージに上がってください』と呼びかけた。発言希望者の列は後を絶たず、夜明け前に手を挙げた人がようやくマイクを持てたのは、午後3時を回ってからだった。南泰嶺では誰もが聴衆であり、同時に語り手だった。」
「参加者の話はそれぞれ異なっていたが共通していたのは、韓国社会で経験した差別と疎外について語っていたことだった。光州出身のある女性は、「ソウルの言葉を覚えるためにボールペンをくわえながら発音練習をした」と涙ながらに語り、忠清南道(韓国の中部にある地域)から来た女性農民は「革新を求める知識人たちが農村問題には冷笑している」と苦言を呈した。若手の農民はスマート農業中心の政策対応を批判した。フェミニスト、性的マイノリティ、韓国で育った中国国籍の若者もステージに上がった。ある参加者は「農民、女性、若者たちが自身の話を通じて互いに学び合った。まるで28時間の学校が開かれたようだった」と語った。(出典:シサイン)」
こうした連帯の波の末、警察は22日午後4時に車両バリケードを撤去し、30台のトラクターのうち10台のソウル市内進入を許可しました。これらのトラクターは大統領官邸に向かい、抗議を続けました。トラクター抗議を主導した全国農民会総連盟のハ・ウォノ議長は、この勝利について次のように評価しました。「これは、憎しみと差別のもと主流社会から排除されてきた女性、性的少数者、若者、高齢者、都市の貧困層、そして農民が築き上げた勝利です」(出典⑥)。
クィア・カルチャー・フェスティバルで出会った農民と性的マイノリティ
全国農民会総連盟や全国女性農民会総連合などの農民団体は、6月14日にソウルで開かれた「ソウル・クィア・カルチャー・フェスティバル」にブースを出展しました。これは、大統領官邸前の弾劾集会で参加者が「農民たちもプライドパレードに来てほしい」と自由発言で語ったことへの応答でした(出典⑤)。
各農民団体は、様々なブースを展開しました。クイズを通じて農政課題を伝えたり、「食の基本権」に関するアンケート調査を実施しました。全国各地で収穫された農産物も配られました。農村牧師のチャ・フンド牧師は、今年も性的マイノリティのカップルに対して祝福の祈りを捧げました。参加者たちも弾劾集会で共にした南泰嶺での時間を覚えており、農民団体の参加を歓迎する様子が見られました(出典⑦)。


最後に、ソウルクィア・カルチャー・フェスティバルで全国女性農民会総連盟のチョン・ヨンイ会長が語った連帯のスピーチをご紹介しながら、セクシュアルマイノリティと農民が示した連帯の価値と意義を、改めて心に刻みたいと思います。
「農民も、皆さんと同じように、常に少数者でした。農民の闘争はいつも孤独でした。物価が上がれば、農産物がその元凶とされ、すべての貿易協定の犠牲は農産物に向けられました。農民の声は常にかき消され、犠牲ばかりを強いられてきました。」
「でも、南泰嶺では違いました。農民の闘争に一切のためらいなく駆けつけてくれました。条件なき連帯を送ってくださいました。第一回目の南泰嶺でも、第二回目の南泰嶺でも、尹錫悦が罷免されるその瞬間まで、性的マイノリティの仲間たちが共にいてくれました。」
※注:本稿における「第一回目の南泰嶺」とは、2024年12月21日に発生した出来事を指します。「第二回目の南泰嶺」とは、2025年3月25日に農民たちが尹錫悦大統領の弾劾判決の遅延に抗議し、再びトラクターで上京を試みた際、警察が南泰嶺の入り口を封鎖した事態を指す。
「農民たちは、人種の違い、障害の有無、学歴、財産、地域、性の違いを超えた平等な世界を語り、体験しました。農民たちも、そこで多くを学びました。」
「ただ、残念ながら田舎は、いまだに最も強い家父長制が残っている場所です。農民の中でも女性農民は、農業の主たる担い手でありながら、法律的・社会的な地位を十分に保障されていません。30年間、差別や憎しみ、抑圧に立ち向かい、平等を叫びながら生きてきましたが、『これしか変えられなかったのか』と自責の念に駆られることもあり、本当に申し訳なく思っています。」
「私たちはこれからも、土地を耕し、組織を強めていく活動を続けます。女性農民は、南泰嶺で芽生えた女性とセクマイの出会いを連帯へと育て、食料主権を通じて、すべての人が平等に食する権利を持てる社会への実現を目指していきます。」
「多様性のあるところに革命があります。農村にも性的マイノリティの存在が保障されなければなりません。スティグマや差別のない、ありのままの存在と生を守るために、共に闘っていきます。この世界は、私たちのような少数者、差別される人々が変えていくのです。そして、その差別のない平等な社会に向かって、女性農民も、農民たちも、皆さんと共に歩んでいきます。」
翻訳:가리
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原文:Miguel
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参考資料 (韓国語)
김세희. 2025년 1월 30일. 「탄핵 시위에 왜 이렇게 무지개 깃발이 많냐구요?」. 오마이뉴스. https://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0003099710
이오성. 2023년 4월 25일. 「양곡법 거부, 대통령이 사상 처음으로 농민을 걷어찼다」. 시사인. https://www.sisain.co.kr/news/articleView.html?idxno=50146
2024년 12월 20일. 「한덕수 대통령 권한대행이 거부권 쓴 '양곡법 개정안'은 무엇?」. BBC 뉴스 코리아. https://www.bbc.com/korean/articles/cy4pj9w54nyo
이오성. 2025년 1월 6일. 「서로를 가르친 28시간, 남태령은 ‘학교’였다」. 시사인. https://www.sisain.co.kr/news/articleView.html?idxno=54716
임은경. 2025년 6월 7일. 「“차별받는 소수자들이 세상을 바꿀 거예요”」. 프레시안. https://www.pressian.com/pages/articles/2025060412264045704
박주연. 2025년 1월 4일. 「‘남태령 대첩’ 이후, 여성과 소수자가 열어갈 세상」. 일다. https://www.ildaro.com/10085
강선일. 2025년 6월 19일. 「‘무지개 축제’ 초대받은 전봉준투쟁단, 성소수자 친구들과 재회」. 한국농정신문. https://www.ikpnews.net/news/articleView.html?idxno=67553
명숙. 2024년 12월 24일. 「[명숙 칼럼] 남태령의 밤, 우리의 투쟁은 다른 세상으로 나아가고 있다」. 민중의소리. https://vop.co.kr/A00001665531.html
고은. 2024년 12월 26일. 「소수자 연대가 새로 쓴 역사, 남태령 대첩」. 주간영동. https://www.bluestars.kr/news/articleView.html?idxno=5016
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